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公立保育園の民営化計画、特別支援教育などで西宮市、神戸市を視察

2008,06,03, Tuesday

2008,06,03, Tuesday3A

日本共産党川崎市会議員団は、5月8~9日、西宮市における公立保育園の民営化計画の動向、神戸市における公立幼稚園の現状と幼児教育、兵庫県の特別支援教育センターの視察を行ないました。
市会議員7名(竹間幸一、市古映美、石田和子、石川建二、斉藤隆司、勝又光江、大庭裕子)、政務調査員2名、合計9名が参加しました。
この視察から明らかになったことを
(1)西宮市における公立保育園民営化の動向、市民・職員の運動について
(2)兵庫県立特別支援教育センターの機能と役割について
(3)神戸市における公立幼稚園、幼児教育の位置づけと現状について
の3回にわけて報告します。今回はその1回目で、宮市における公立保育園民営化の動向、市民・職員の運動について報告します。

西宮市における公立保育園の民営化計画の動向、神戸市における公立幼稚園の現状と幼児教育の公的保障、兵庫県立特別支援教育センターについての視察報告

2008年6月2日

日本共産党川崎市会議員団

(1)西宮市における公立保育園民営化の動向、市民・職員の運動について

「しんぶん赤旗」(2008年4月10日付)で、「大好きな保育所なくさないで~父母・職員の運動 民営化提案止める」の見出しと特集記事が紹介された兵庫県西宮市。どういう民営化計画があり、市民・職員はどんな運動を展開したのか、さっそく視察に訪れた。
六甲山系北側に位置する西宮市は、神戸・大阪のベッドタウン。大震災で人口42万人から39万人に減ったが、いまは47万人まで回復し、今年4月、中核都市になった。
8日(木)、西宮市役所での調査では、冒頭、議会事務局次長が歓迎挨拶で、「甲子園のあるまち、酒蔵のあるまちにようこそ。復興の取り組みに全国からご協力いただき、ありがとうございました」と述べた。

保育関係者の協議、現場の意見聴取もしてきた行政

公立保育園の民営化計画について、同市健康福祉局こども部長、同課長、子育て企画・育成グループ課長補佐からレクチャーを受けた。
こども部長は、「震災後の復興・復旧に多額の予算がかかり、財政赤字の問題と保育の問題を一緒に考えなければならない。西宮市は大阪・神戸に15分の立地で、マンションが増え、物価も安いために若年層が流入し、子育て世代が多くなり、保育所不足、待機児童問題が解消できない状況で、保育所の民間移管の方針を立てた。平成7年の震災後、平成8年~20年度まで行財政改革に取り組んでいる」と述べた。
グループ長が、この間の民間移管計画の経過を説明した。
西宮市社会保障審議会が平成17年6月に「西宮市の保育サービスのあり方について」答申書を発表。(当時、公立保育園は23カ所、民間保育園は22カ所)。平成17年10月から平成19年12月まで、公立保育所改革と民間移管に係る協議(メンバーは、保育所長代表、市職労など保育関係8団体)を25回開催。公立全23園対象の保護者説明会を2回開催し、保育所民間移管への趣旨と今後の計画策定にあたっての意見聴取が行なわれ、意見をホームページにも掲載。平成19年7月に「西宮市立保育所民間移管計画(案)」を発表し、具体的に対象となった3ヵ所で保護者説明会(各2回)、職員説明会(3回)を行なった。

市社会保障審議会の答申書「西宮市の保育サービスのあり方について」

市社会保障審議会の5回の審議を経て発表された平成17年の「答申書」では、基本的な姿勢として、「答申後具体的な施策策定を行う場合には、関係者と協議の場を設け、市民の保育サービスの向上にむけて具体的に協議することが大切であることを申し添えます」の文言が入った。規制緩和については「株式会社などの参入は、認可園募集の際の審査において、よりよい保育の質の確保のためにさらに厳しい基準を設け、慎重に審査を行なうとともに、…認可後の運営指導やチェック体制を十分整えるよう求めます」としている。
公立・民間保育所の役割分担については「公立保育所は民間保育所に比較して保育士の数が多く、経験豊かな保育士が多く配置されている特性を生かし、通常保育はもちろんのこと、障害児保育やDV家庭児童・虐待児童への対応、園庭開放や出前保育など地域の子育て支援に積極的に取組んでいます。一方、民間保育所は通常保育はもちろん、市民ニーズの高い延長保育、一時保育、産休明け保育などに積極的に取組んできています」としたうえで、「しかしながら、本来、公立保育所も地域の多様なニーズに対応し、一時保育、延長保育、産休明け保育などにも積極的に取組むべきであり、豊富な人材や経験豊かな保育士を生かし、保育所運営に応えるべきです」としている。「現在民間保育所に比べ1.47倍かかっている経費の削減に早急に取組む必要があります」として、「税の効率的な執行という観点からも、公立保育所に多額の経費導入は困難であり、本審議会では、1委員より反対の意見がありましたが、諮問に示されたとおり民間移管を実施することとし、具体的検討を進めるべきである」と打ち出された。

優れた民間保育所への補助も廃止・見直しに

同時に答申では「民間保育所助成金のあり方について」で、「現行の助成金を見直す必要がある」とした。西宮市では、国家公務員行政職の給与体系に準じた「民間保育所給与規則準則」を市が定め、民間保育所が採用することを前提に、その人件費と国で定められた保育所運営費に占める人件費との差額を助成する方式を採用してきた。答申では「こうした公民の給与格差是正を目的とした助成金制度は、これまで一定の保育水準の向上に寄与してきたといえますが…、給与制度については、『公』が『民』に関与する仕組みは改め、法人の経営工夫や独自性に委ねるべき問題と考えます」とされ、平成18年度に改定された(3年間の激変緩和策の後に廃止)。

公立で「多様なニーズに応える事業」が前進

こうした「答申書」を経て、昨年7月発表された「民間移管計画」(案)では、当面3ヵ園の民営化が打ち出された(平成21年4月に朝日愛児館、平成22年4月に鳴尾北保育所、今津文協保育所)。これに対する保護者の声として、「保育環境の変化に対する不安」「ある日、先生がいなくなる、子どもの環境に十分なフォロー(引き継ぎ)を」「民間では勤続年数が浅くて、公立より10歳わかい。経験豊かな保育士が安心」などの声が根強くあったという。
西宮市も「待機児解消」が民営化の理由の一つだが、平成19年4月現在で、待機児童数は全市で36人だった。ケタが違う川崎市の待機児問題の異常さを実感した。
先の「答申書」以降、父母の多様なニーズに応える取り組みが前進した。成17年まで2ヵ所だけだった午後7時までの延長保育は、平成19年3月から公立23ヵ所全園で実施(民間は、後6時までが5ヵ所、午後7時までが19ヵ所、午後8時までが2ヵ所)、産休明け保育も、17年時点で公立ゼロ、民間5ヵ所だったが、現在公立22ヵ所で実施(民間は7ヵ所)。一時保育はスペースの問題があり、現在も公立ゼロ、民間10ヵ所、障害児保育の拠点数は公立11ヵ所、民間6ヵ所(平成19年4月現在)。
民営化の理由として「公立では多様なニーズに応えられない」と決めつけ、自ら充実させようとしない川崎市の姿勢と、それまで遅れていたとはいえ、公立でも多様なニーズに応える特別保育事業の充実が必要という方針をたて、民営化をすすめる前にそれを前進させた西宮市の姿勢の違いに驚かされた。
「答申書の精神で、保護者と話し合いを重ねる」と、こども部長

市当局は今年3月予算議会に3ヵ所の民営化案を出したかったが、提案を見送った理由を尋ねると、こども部長は「本当は昨年12月議会に出したかったが、3月に送ろうとなった。しかし、保護者との協議も2回しかできていないので、このまま提案するのは、社会保障審議会・答申書の精神(関係者と協議の場を設け、市民の保育サービスの向上に向けて具体的に協議することが大切)にそぐわないということで、3月提案も見送った。もう少し保護者の方々との話し合いを進めて、保護者の方々の意見を斟酌して、しかるべき時期に議会にご提案したい」と述べた。

公私の役割分担論はおかしい~共産党西宮市議団との懇談より

2008,06,03, Tuesday3B

つぎに、共産党西宮市議団と懇談。佐藤みち子、いそみ恵子の両議員が説明してくれた。
佐藤みち子市議は、先に行政から紹介された市社会保障審議会のメンバーでもあった。同審議会には、4項目(1、保育所運営主体の規制緩和、2、公立・民間の役割分担と民間移管、3、民間保育園助成金のあり方、4、保育所における保育料のあり方)が諮問され、5回協議が行なわれた。3回目の社保審は共産党の提案で、現場の意見を聞く(民間保育所、公立保育所・園長、保護者、保育士など)機会が設けられたと述べた。
株式会社の参入については、神戸市での実例をあげられた。神戸市で株式会社が参入した保育園では、園長以外の保育士はすべて1年契約で、折り紙、ノリ、はさみも、保育士が百円ショップで買い、トイレも子ども20人に一つだけ、おしっこもうんちもがまんさせられ、まともな保育ができない。経営者の嫌がらせで保育士が解雇され、子どもも親も行き場所をなくし、裁判になった。そして、国からの補助金を別のものに流用していたことが発覚し、突然、保育所閉鎖となったことなどが語られた。
他市では数十年前から当たり前になっていた、特別保育事業を公立でもきちんとやるべきだという父母の声があがるなかで、「本来、公立保育所も地域の多様なニーズに対応し、一時保育、延長保育、産休明け保育などにも積極的に取り組む」ことが盛り込まれたと述べた。しかし佐藤議員は、「行政の役割分担論には無理がある。本来、両方の役割は同じだから、お互い連携が必要であり、いまの保育所の現状、現場の声を聞くべきだ」と提案してきたという。そして、公立保育所改革が進み、7時までの延長、産休明け、主食の保育所内調理の3つのことを実現したと語った。

イケイケドンドンの民営化に歯止めをかける一文を挿入

また、共産党の主張で、答申冒頭の基本的な姿勢で、「答申後具体的な施策策定を行う場合には、関係者と協議の場を設け、市民の保育サービスの向上にむけて具体的に協議することが大切であることを申し添えます」の一文が挿入されたことが、いま、民営化をイケイケドンドンと進めない歯止めになっており、この文言を入れさせたことが大きかったと述べた。
西宮市当局の民営化の根拠に理由について、佐藤市議は、「財政難について、2008年度には321億円の財政不足になるといっていたが、2006年決算では約30億円の黒字で、28年連続黒字。『市長が財政に明るい兆しが見えてきた』と議会で発言したこと、多様な保育ニーズへの対応では、すでに公立改革で自ら多様なニーズに応えていることが示された」と述べ、共産党は市議会で、「2つの根拠が大きく崩れているのだから、民営化計画は白紙撤回しなさい」と求めていると話された。
また、公立改革ですすめるためにも、市職労、保育士を巻き込んで議論してきたのが大きな力になった。市職労が自治体労働者論の立場でがんばった。民間の保育水準も引き上げてきたことから、民間の保育園長も「公立の民営化はよくない」というようになった。民間も補助金削減で、ベテラン保育士は100万円も減ると、怒りが広がっている。この間、JR西日本・福知山線の脱線事故が起こり、107人が犠牲になった。このとき、「安全よりコスト優先」で、「なんでも民営化でええんか」という声が市民の中でも出てきたと述べた。

保護者・臨時保育士等とも共同の運動~市職労との懇談から

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つづいて、西宮市職員労働組合(市職労)と懇談。同執行委員長と執行委員から、市民・職員の運動について説明を受けた。最初に、執行委員長が「公立保育園の民営化とのたたかいは、市職労では最先端の運動。労働組合運動の新たな到達点と思っています」と挨拶した。
保育士の執行委員から、初めに、署名封書付きのジャンボビラが紹介された。発行が、西宮保育所父母の会連絡協議会、西宮市職員労働組合、全日本建設交運一般労働組合西宮支部、西宮市臨時保育士労働組合、西宮市無認可保育所連絡会の5団体。いま増えているパート・臨時保育士らも市内で100人以上組織化され、労働組合をつくって市職労と共同していることに、まず驚かされた。
ビラには、民営化対象の3園の保護者がコメントを寄せ、「3園の民営化反対・公私の格差是正を求める」もので、対象の3つの園では、それぞれの父母が自分たちで独自の署名用紙を作って運動しているという。また、パート保育士などのコメントと合わせ、「公立保育所では予算をかけずに改革を進めています」として、「自園調理・炊飯を実施」「23園中22園で産休明け保育を実施」「午後7時までの延長保育を実施」など、この間の前進を紹介している。
そこで「予算をかけずに」というのは、自分たちでローテーションを組んでやっていこうと。正規の保育士を増やさないで、パートさんで対応することでは、激論があり、「自分たちだけの労働条件を守るだけでなく人を増やさず、やれることからやっていこう、」と。しかし「もう少し人を配置してほしい」という声もあると述べた。

子ども・父母・保育士ら4千人参加して「保育所大好きフェスタ」開催

2008,06,03, Tuesday3D

6団体で「豊かな保育をすすめる会」をつくり、民間移管反対でやっていこうと。平成17年の「答申書」では、いつからどこをやるとか具体的な提案がなかったので、とにかく知らせようと、紙芝居などもつくって、中身を知らせ、23園のすべての保育所で取り組み、10万署名に取り組もうと。駅頭でも宣伝署名を取り組み、いままでにない参加者で、最終的に5万3436人分の署名が集まり、市長に届けた。
「保育所に通う子どもたち・保護者・保育士が楽しみながら保育所のことを広く知ってもらおう」と、2006年から市役所前の公園で「保育所だいすきフェスタ」を開催。民間保育所にも知らせて、テント、屋台が出て、第1回は約4千人が集まり、「すごいね」といわれた。今年も、全民間保育所にも呼びかけて、楽しいお祭りをやり、署名運動をやりながらのフェスタを6月1日に開くことになっている。市職労は市内最大の盆踊りを30年間続けており、市民を集めて何かを一緒にやろうというのは抵抗がないという。
民間保育所協議会も配置基準改善を市長に要望
執行委員長は、民間移管されたら1・2歳児の職員配置基準が6:1にされると。民間も補助金カットで長く働き続けられない給与で、平成18年度から人件費補助が廃止され、やめる人が増えたという。
昨年の12月議会に計画を提案するといわれていたが、まず断念させた。1~2月にかけて組合が交渉をもって、保育士の経験年数の差が保育の質に左右するのではと。公立は6:1を超えて配置しているが、「児童福祉施設最低基準第4条」で、「【1項】児童福祉施設は、最低基準を超えて、常に、その施設及び運営を向上させなくてはならない。【2項】最低基準を超えて、設備を有し、又は運営をしている児童福祉施設においては、最低基準を理由として、その設備又は運営を低下させてはならない」という規定に抵触するのではないかと迫ると、行政は何も言えなかった。
そういうなかで、西宮民間保育所協議会が「公私格差の是正を求める要望書」を市長に提出し、1歳児の保育士配置基準を5対1に、など5項目で要求を出した。執行委員長は「私たちの運動が、民間保育所・保育士の運動にも影響を与えている」「民間保育所は、先生の熱意で、心と体もボロボロ、残業代も出ないで働いている。保育士の熱意だけでやっているのはおかしい、そこも向上させたい、民間の先生も同じになってほしいという思いだ。民営化反対だが、民間保育所ダメ論ではない。保育予算全体を増額すべきだと、ふところの広い要求でたたかっている」と述べた。
(つづく)


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