「認可保育園の緊急増設と民営化ストップで待機児解消を」―雑誌『議会と自治体』に論文掲載
日本共産党中央委員会が発行する雑誌『議会と自治体』に、石田和子市議会議員の論文が掲載されました。こちらでも紹介させていただきます。
『認可保育園の緊急増設と民営化ストップで待機児解消を』 日本共産党川崎市議会議員 石田和子
2013年4月時点で川崎市の認可保育園に申し込んで入所できなかった=不承諾数は、2,765人いました。しかし市の発表した待機児童数は、438人――なぜこのような差があるのでしょうか。
川崎市は2012年度から認可保育所を18カ所増やし、定員も1505人増やしましたが、利用申請数も前年より1439人増加しています。この推移をみても、保育所の定員を増やしてもほぼ同じ規模で申請数が増加しており、この規模の増設では、待機児解消策にならないことがあきらかです。
川崎市は公立保育園の民営化をすすめてきましたが、今後10年間で、さらに36園を民営化する一方、企業参入を押しすすめようとしています。
党市議団は九月議会において、企業参入の問題点を追及しました。以下、川崎市の待機児童の解消の問題点と課題を検証します。
待機児童数を少なく見せるカウント方法の問題点
川崎市は、厚労省のしめす待機児童の定義にもとづき、今年4月、認可保育所に申し込んで入れなかった不承諾数2,765人のうち、①やむなく認可外保育所に入所した1,223人、②産休、育休明けの職場復帰のための申請508人、③第一希望の保育所のみ請した439人、④今年からあらたに自宅で求職活動をする39人も待機児にカウントせず、差し引いています。
さらに川崎市は、東京23区や近隣政令市の多くが「待機児童」としている「一時保育を利用」の118人や「育児休業の延長」も、「待機児童ではない」としています。
待機児童にカウントしない項目をたくさんつくることで、待機児童数は減っているように見えても、不承諾数は逆に増えています。実態は、2,765人が待機児童なのです(表1)。
保護者のニーズは認可保育園への入所
やむなく認可外保育施設に預けた人など、不承諾の多くの方がたは、次年度も「今度こそ」という思いで、認可保育所に申し込みます。保護者の要求は、経験を積んだ保育士や看護士、栄養士等の専門スタッフが配置され、園庭のある認可保育所に入りたい、というものです。川崎市は、2014年度以降の保育所の整備計画を今年度中に策定しますが、必要整備数は不承諾数をベースにし、そのうえに人口動態や経済、雇用状況等から生じると予測される新たな保育ニーズを加えた数にすべきです。
2013年九月議会では、待機児解消のための来年度以降の認可保育所整備について、質問しました。
市は来年度以降の認可保育所の整備について、「就学前児童人口から推計した保育所利用申請者数をもとに、認可外保育事業の再構築の効果等も踏まえ、関係部局とも協議しながら、現在、認可保育所の整備数を検討している」、「国が今後四年間で解消すると言っているので、市もできるだけ早い時期での解消に向けてとりくむ」と答弁しました。
私たちは、市の「保育所整備計画」のもととなる保育所申請の推計が、”子育て世代のおかれている雇用実態や経済実態の厳しさからからみて甘い”ということをこの間の実態から指摘し、今年度中に立てる来年度以降の整備計画は、申請が急増している実態をしっかり反映した計画にすることを求めました。
推計の甘さから相次ぐ計画の見直し
この間経過をみると、市の計画は入所申請推計の甘さを証明しています。
2007年度「保育緊急五カ年計画」策定
川崎市は2002年に10年間の「川崎市保育基本計画」を策定し、保育の定員増を毎年図ったものの、2006年4月の待機児童数は480人で一向に減少しないことから、2007年度に「保育緊急五カ年計画」を策定し、5年後の2012年4月の認可保育所申請数を16,400人と見込み、5年間で2.600人の整備計画を立てました。
しかし実際の申請数は、2年後の2009年に到達(16,384人)し、減るはずの待機児童が2009年には713人に達しました。市は急きょ、計画期間中に計画の見直しをおこないました。ちなみに2012年4月は、市の推計した16,400人より4,325人も多く、20,725人になったのです。
2010年「緊急五カ年計画改訂版」策定
2010年、市は「今後三年間の新規の利用申請が毎年千人ずつ増加すると見込み、三年間で三千人の定員を増やす」としました。
党市議団は、入所できない保護者の実態を毎議会告発し、「市の推計は甘い」と指摘し、今日の経済、雇用状況の厳しさから保育ニーズはますます高まるとして、五千人の整備計画を策定するよう提案しました。そして、この間の「民間事業者活用型=企業」による保育所整備に重きをおくのではなく、国、県、市有地の積極的な活用をおこない、さらに土地所有者と保育事業者とのマッチングなどで、認可保育所の抜本的な緊急増設の強化を求めました。その結果、2012年度に国有地活用型が1カ所、マッチング事業による新設が2012、13年度に計9カ所整備されました。
その後、私たちが指摘したとおり、「保育緊急五カ年計画改訂版」策定直後の2010年4月には、新規の入所申請は千人をはるかに超えた1,648人にのぼり、待機児童も2009年から363人増えて1.075人になりました。その後の新規申請者は、2011年度は1,209人、2012年度は1,484人と、毎年千人をはるかに超えました。
入所申請数を就学前児童数の比率でみても、2010年度23.94%、11年度25.73%、12年度27.39%と、年々保育ニーズが高まっていることがわかります。
改定初年度から予測が崩れたのは、今日の子育て世代のおかれている厳しい生活実態をとらえていないからと厳しく指摘し、計画の見直しを強く求めました。
2011年度、保育プランを策定
2011年度川崎市は、2015年度までの五年間を計画期間とする「第二期川崎市保育基本計画・かわさき保育プラン」を策定し、2013年度までの3年間で四千人の認可保育園の受け入れ枠を増やす計画をしめし、整備をおこなってきました。
具体的には、2011年度の整備計画で1,415人、12年度の整備計画で1,435人、13年度の整備計画で1,270人の定員増をそれぞれおこなう、という計画です。詳細は表3のとおりです。
不承諾数と潜在ニーズにふさわしい定員増計画、認可保育所の増設を
保育プランにもとづく整備による市の待機児童の実態は、先述したとおりです。
九月議会で、2014年度以降の整備計画では、就学前人口にしめる保育所利用申請比率を30%におき、認可保育所を申請しても入れなかった人数を待機児童とみて、抜本的な認可保育所の整備をおこなうことを求めました。
市は、「今後の保育ニーズの把握に努め、民間事業者の活用を基本として多様な整備手法により待機児解消にむけてとりくむ」と答弁しています。しかし、この「民間事業者の多様な整備手法による整備」の多くには、企業が参入しているのです。
企業参入をどんどんすすめる一方で、経験を積んだ保育士が確保され、地域の子育て支援もがんばっている公立保育所の民営化をすすめる市のやりかたは、納得できません。
私たちは、保育所の増設をこうした企業参入の整備手法によってではなく、市有地、県有地、国有地の活用を全庁的に検討し、民有地借り上げ型の保育事業者とのマッチング事業の整備等を提案しています。待機児解消のためにも、人材が備わっているマンパワーのある公立保育所の民営化をストップさせるべきと考えます。
公立保育園の民営化ストップを
この間、ほぼ毎年五カ所の公立保育園の民営化が、保護者や職員らの反対のなかで推しすすめられてきました。公設公営の保育園は、2000年度の88園(定員数8,175人)から、12年度には63園(定員数6,100人)に、12年間で25園も減らされました。「民間でできるものは、すべて民間で」という阿部市長の「行革」断行のもとですすめられました。民営化する理由を、「運営費を五千万円浮かせることができる。待機児を解消できる。公立保育園の硬直した運営から、民営化で柔軟で多様な保育ニーズに応えていける」としました。市のそれらの根拠は、私たちの論戦で次つぎ破綻しました。”なによりも乳幼児の育ちにとって、保育士との人間関係、愛着関係が大切であり、民営化でそれを断ち切ってしまっては、子どもに著しい不安を与えてしまう。保育の継続性が断ち切られる。児童福祉法第二十四条で「保育所を選択し、そこで保育を受ける権利」が子どもと保護者にある”こと、などを主張してきました。
「コストを削減できる」という市の言い分についても、人件費削減=労働条件悪化に直結し、保育水準の低下を招くこと、保育士の離職率を高め、さらに人材確保が困難に直面することを指摘してきました。
09年4月に民営化した3カ園すべてで、引き継ぎ期間の6カ月間に主任保育士や保育士が退職する事態になり、”引き継ぎ保育のなかで、保育の継続性を担保する”とした行政のいい分は崩れました。また、待機児の増加のもとで、”民営化により運営費が五千万円削減でき、それを待機児解消に回す”と言ってきた根拠も崩れ、「公立保育園の運営費に対する国庫負担金が廃止されたこともあり、保育所の運営に関る経費を見直し、効率的で効果的な運営手法に変えていく必要から(民営化を)すすめている」と、答弁を変えてきました。民営化で、待機児解消はできず、多様なニーズは公立保育園でもこたえられることもあきらかにしました。
「新たな機能をもつ公立保育園」以外は順次民営化めざす
川崎市が2011年度に策定した「かわさき保育プラン」に、公立保育所の再構築をおこなう方針をしめしました。
方針は、公立保育所について、”各区3カ所を新たな機能を持つ公立保育園として残し、あとの36園は、今後十年間に順次民営化をすすめる”、というものです。
3カ所については、1カ所を基幹型とし2カ所をそのブランチと位置づけ、①地域の子ども・子育て支援、②民間保育園への支援、③公・民保育所への人材育成支援、という新たな機能をもたせるとしています。しかし、地域の子育て支援は、これまですべての公立保育所がになってきました。身近な公立保育園が地域にあるからこそ、地域の子育て支援の役割が果たせるのに、区に3カ所になったら、子育て支援機能は逆に低下します。また、”民間保育所への支援や人材を育成する”としていますが、市がこれまで「民営化しても保育の専門性と継続性は担保される」と繰り返し答弁してきたことと、矛盾します。
公立保育所で、民間保育園の職員への支援指導をしなくてはならないというのならば、はじめから公立保育所をわざわざ民営化しなければよいことです。公立保育園の役割が重要というのなら、3カ所に絞り込むことをやめ、いまある公立保育所を存続すべきです。
企業参入は保育になじまない――決算書から実態と問題点をあきらかに
川崎市の認可保育所は2013年度現在で211カ所、その内訳は、公立保育園が57カ所、民間保育所164カ所です。民間保育所の内訳は社会福祉法人82カ所、株式会社68カ所、その他14カ所です。株式会社は全体の32%、民間保育所の41%を占めます。
川崎市は、先にのべたように三年間の定員増の約半数を、「民間事業者活用型」の整備手法で株式会社にゆだねたのです。私たちは、企業参入は保育にとって不可欠な継続的、安定的な事業運営が困難にすることを指摘してきましたが、2008年にハッピースマイル園が突然閉鎖される事態が起こったのに続き、2013年4月開設予定の(株)日本保育サービスのアスク新百合丘は、4月1日の入所内定通知が保護者に発送されていたにもかかわらず、工事着工が遅れ開設が6月にずれ込むなど、子どもと保護者に大きな不利益と不安を与えました。
この間の議会で、党の議員団は「保育の質の確保のためには、経験を積んだ保育士をはじめバランスのとれた職員の確保とともに、経験を重ね専門性を高めていくためには働き続けることができる賃金や労働環境が必要であり、その重要なことが担保できない企業参入は保育になじまない」と主張してきました。まさにそのことがあきらかになった2012年度の(各保育園の)決算書をもとに、九月議会で追及しました。
平均勤続年数「一年」が16園も
まず2013年六月議会で(質疑にむけ)、株式会社の経営する認可保育園の職員の勤続年数を調査しました。
すると、職員の平均勤続年数が「1年」の保育園が16園あり、そのうちの15園が、急激に箇所数を増やしている(株)日本保育サービスと(株)こどもの森の2社で占められています。なかには開設後5年、3年経過しても平均勤続年数が「1年」という園もあり、離職率が高く保育士の入れ替わりが激しいことをしめしています。相当人件費を削っているのではと、私はこの間、2012年度決算で調査してきました。職員の低賃金、労働環境の悪化、ひいては保育の質に重大にかかわるからです。
認可保育園には、国や市から「保育所運営費」、いわゆる公金が入ります。これは、人件費や給食費、教材費など、子どものために使われなくてはならないものです。
運営費に占める人件費比率は40.7%
しかし調査でわかったことですが、この2社の経営する60人定員18カ所の運営費に占める平均人件費比率はなんと40.7%。90人定員では50.4%という低さに衝撃をうけました。ちなみに、社会福祉法人の運営する保育園は60人定員では64.9%、90人定員では73.5%、70%前後がこれまでの常識であり実態です。2社は、人件費を圧倒的に押さえ込んでいることがわかりました。
公金から多額の国債購入、本社に上納金
さらに、「人件費以外には何に使われているか」を調査しました。市内12園を経営する「こどもの森」系列で、「こすぎっこ保育園」(設立5年経過)の場合、有価証券取得費が1,150万円、積立貯金が250万円、本部への上納金は「租税公課」という名目で1.055万円、職員俸給額1,638万円よりはるかに多くなっています。「こどもの森」系列12園の運営費総額10億4432万円余に対し、「投資有価証券取得費」(これは国債を購入したとのこと)に、総額1億1850万円も支出されています。これは、企業が参入しやすくするために、国が「リスクの大きい株式投資などは認められないが、安全確実な国債、地方債は買ってもよい」と規制緩和したからです。しかも、これには”上限額の定めがない”というのですから、「違法ではない」と言っても、市民には納得できるものではありません。さらに、本社への上上納金は「租税公課」と言う名目で1億1591万円余にものぼります。上納金の上限は、最大、国基準の運営費の3カ月分まで支出できる、というのです。
関連会社に多額の講師派遣料
市内22園を経営する「日本保育サービス」が運営する「アスク平間保育園」(開設三年経過)は、職員平均勤続年数は0.8年、人件費比率は36.6%、職員の研修費はゼロ円で、調理業務委託費が764万円余、リトミック(動きを通して音楽を学ぶ)の講師料が479万円余支出されています。この講師料は、親会社である国内最大手の保育企業グループ「JPホールディングス」の関連会社からリトミック、体操、英語の講師の派遣をうけ、支払っているものです。調査すると、22園で総額1億300万円余支出していました。
講師派遣会社として顧客獲得の宣伝も、場所の確保も不要で、確実に収入が入る仕組みではないでしょうか。本社の「JPホールディングス」に資金が環流する仕組みではないか、という疑念をもたざるをえません。
監査は及ばず、使途の後追いができない!
本社に支出された運営費について、後追いしチェックすべきであり、チェックの仕組みをつくるべき、と質問したのですが、”有価証券についての監査は、取得や資産への計上が適切かどうかだけの監査”との答弁で、何に使ったのかなどの後追いはできません。
本社への上納金「租税公課」については、社会福祉法人の場合は本部に上納金をあげたとしても、法人の本部にまで監査をおこないます。しかし、株式会社については、保育所からの上納金については行政の監査は及ばず、使途について後追いはできません。こういうことでは、企業参入をすすめるべきではありません。
市議団の調査で20政令市のうち、現時点(13年9月)で株式会社が参入していないのは5市であることがわかりました。北九州市は、株式会社参入での保育内容に対する不安から、160カ所の認可保育園のうち、民間132カ所はすべて社会福祉法人となっています。名古屋市でも同じ理由から、認可保育園345カ所のうち、公立保育園を除く225カ所は社会福祉法人等となっており、株式会社は1カ所もありません。
企業参入をやめて、直ちに是正の指導を
川崎市も、保育の実施に責任をもつ自治体として、企業参入をすすめるべきではないことを強く求めました。そして、市はいまからでも是正を指導すべきです。自治体のあり方が問われる問題と思います。
国は「最小のコストで最大の効果をあげる」として、「保育の市場化、産業化」をいっそうすすめようとしています。私は、こうした国のいい分を聞くとゼロ歳から就学前まで幼い子どもが育つ環境が最小のコストでいいはずがないと、いつも怒りがわきます。しかも、その「最小のコスト」といっているなかから、子どものためにつかわれているお金は、その中の一部に過ぎず企業がもうかる仕組みをつくることができているわけですから、結局、これは企業にとって「最大の利益」を上げるための仕組みであり、市がこうした仕組みづくりに手をかしているのが、その実態であることを厳しく糾弾しなければなりません。
子どもが豊かに成長し、安心して預けることができる認可保育所の整備を
共産党川崎市議団がおこなったアンケートでは、「ゼロ歳児から申請していますが、二歳児になっても認可にはいれません」、「悩みは保育園に入れず仕事ができないことです。このような状態では二人目が欲しくてもつくれそうにないです」、「ハローワークに行くと”預ける所を見つけろ”といわれ、区役所に行くと”仕事が決まってないと保育園には入れない”と言われる。どうしたらいいのか!」など、待機児童の保護者から、悲鳴と怒りの声が殺到しています。
待機児解消と保育士の人材確保のためにも、マンパワーのある公立保育園を民営化せず存続させるとともに、認可保育園の抜本的な緊急増設のために、市民と力をあわせてがんばりたいと思います。
(いしだ・かずこ)