福島県への視察【1】 県庁・党県議団との懇談
日本共産党川崎市議団は7月25日から26日にかけて、津波被災と放射能事故による災害の実態とどのような行政支援ができるかを調査することを目的に、福島県を視察しました。
25日は、福島県庁でレクチャーを受け、その後日本共産党福島県議団と意見交換を行いました。
1)原子力事故と環境汚染
はじめに、原発事故による放射能汚染の状況について、災害対策本部原子力班、原子力安全対策課の方から説明をしていただきました。
原発事故以来の放射線の状況
3月11日、7基の原子炉が稼働していた。
12日に1号機が、続いて14日に3号機が爆発、さらに15日の2号機4号機の水素爆発で放射性物質が大量に放出されピークに達した。
南相馬市は3月13日に20μsv/h、飯館村は45μsv/h、14~15日に風が巻いていたために海側に放出された時間帯には数値が上がらず、陸側に風が吹いたときに数値が上がっている。浮遊していた放射性物質が15~16日の雨で落とされて陸地部分の土壌濃度を規定したと考えられる。
放射線量は4か月の間に自然減少している。雨などの気象条件によって自然に減衰することと半減期によるものと考えられる。
5㎞メッシュでモニタリングポストを570ヵ所に配置、リアルタイム線量計を公園・役所・学校など人の集まる2700ヵ所に設置している。(左写真:鹿島小学校校庭にあるリアルタイム線量計)
現時点での放射性物質の放出は?
まだ放射性物質は原発から出続けている。事故当初から見ると考えられない低いレベルだが、事故前から考えると問題になるレベル。ストロンチウムやプルトニウムも検出されている。
海洋汚染、海産物の状況は?
放射能汚染が認められない海産物については出荷している(測定結果はHPで公表)。川を含めて泥にセシウムが移る。海での測定を10㌔メッシュで3層ごとに行っている。いわき市ではかなりの海産物から出るが、相馬市ではあまり出ない、という状況だ。
2)県内外への避難状況、避難者への支援
つぎに、県内外への避難状況について、避難者支援課の方にお話を伺いました。
避難者の現状と県の支援
今年度から、それまでの避難対策の部署と生活支援の部署を統合する形で、新たに「避難者支援課」がつくられた。生活支援金の支給と県内101,010人、県外61,548人の避難者への支援を行っている。
県外への避難者は避難指示区域の見直しなどで、2012年1月26日の62,808人をピークに減少。県外避難者は①山形県が12,075人、以下②東京都、③新潟県、④埼玉県、⑤茨城県、⑥千葉県の順に多く、神奈川県は8番目に多い2,666人。なおこの数字は避難指示された地域の避難者のみで、自主的に避難した人たちはこの中に含まれない。
津波からは逃れたものの、災害関連死(避難の過程や仮設での孤立死など震災後に亡くなった方)は1157人の申し出があり、現在(7月13日付)の認定数は953人にのぼる(下表参照)。
支援の内容は、①避難者の多い近隣県などへの職員派遣、②仮設住宅や借り上げ住宅(みなし仮設)など住宅の提供、③福島の地元紙や情報誌の発送やブログでの情報発信(自主避難者には情報が入りにくい)、④避難先のNPOなどと協力して交流の場の設置、などを行っている。
避難の長期化への対応は?
災害救助法では「仮設は2年が期限」となっており、厚労省と協議して1年ごとに更新することになっている。復興住宅の建設がなかなか進んでいない。長期化が予想されるので、県内に安心して戻れる環境ができるまでには、県外避難も延長できるように考えている。
震災のあと、着の身着のまま避難された方も多いが、「4~5人家族なのに4畳半2間」「入ったが立てつけが悪い」など住み替えの問題も起きている。県内避難の方は「1回の住み替えはOK」ということにしている。県外→県内の住み替えは認めているが、県外→県外は認めていない。子どもの進学などケースバイケースで認めることもある。弾力的運用を国に求めている。
帰還支援の計画や避難先での生活支援は?
昨年12月に、除染やインフラの復旧などについて復興計画を策定した。避難者の声を聞くと、「いつ帰れるのか」との声が多い。「地元の除染はいつ?」「帰れる(放射線の)状況なのか?」といったこと。東電の賠償も始まっているが、手続きなどが大変で県民が請求してこない。
母子避難の方もかなりいる。夫は県内に残って仕事を続け、妻子は県外に避難、という二重生活。高速道路の無料措置が終了したため週末に戻るにしても高速代がかさむ。福島県内は無料だが、県外への移動をされる方も多く負担になっている。
さらに避難先の医療費の問題がある。県内は窓口で18歳未満医療費無料だが、県外は医師会などの協力が必要な関係で償還払い(一度窓口で支払った後、返金する方式)になる。「甲状腺の検査、ホールボディカウンターによる測定をしてほしい」という要望も多く寄せられている。
保育料の負担も問題だ。(住民登録していない子どもを受け入れる)広域保育は一部市町村でしか行われておらず、多くの自治体で避難者は私立保育園・認可外などに入らざるを得ず、莫大な保育料がかさむ、という実態だ。
①「警戒区域」から避難している方(原発避難者特例法で指定された双葉町など)は、どの市町村でも、福祉、医療、健康などの行政サービスを避難先で受けられる。しかし、②その他の市町村から避難している方は、そうした行政サービスを受けられない。例えば福島市と川崎市がサービスの協議をしてようやく受けられる、ということになる。サービスの要望はあるが、実際には避難元の市町村の考え方をあってむずかしい。要望を伝えていくしかない。
3)再生可能エネルギー
続いて、再生可能エネルギー推進ビジョンについて、企画調整部エネルギー課の方より、お話しをうかがいました。
『2040年に再生可能エネルギー100%』をめざして
福島県は以前から再生可能エネルギーの導入をはじめており、すでに2009年の時点で2000年と比べて2.7倍に(下図参照)。さらに導入をすすめるべく震災前の2011年3月に「福島県再生可能エネルギー推進ビジョン」を策定した。
それが震災で状況が一変した。昨年8月の「福島県復興ビジョン」で「再生可能エネルギーの飛躍的推進による新たな社会づくり」をうちだし、さらに2012年3月に「再生可能エネルギー推進ビジョン」改訂版を策定し、「環境+復興の両立で再生可能エネルギーの先駆けの地」となることをめざし、それを「福島モデル」として発信する、としている。
推進ビジョンは、『2040年までに再生可能エネルギー(大規模水力と地熱発電を含め)100%以上』を目標にしている(下図参照)。ハードルの高い目標だが、震災からの復興という発信も含めての目標、どう実現するかは率直に言って今後の課題だ。
【課題1】導入推進のための基盤づくり
『2040年に再生可能エネルギー100%』の目標達成にむけた課題の一つは、基盤づくり。「そのためには県内で再生可能エネルギーにかかわる人を増やすこと」が重要。7億円の予算で太陽光発電の住宅用直接補助を開始、単価は他県に負けないよう1kwあたり5万円にした。国の買い取り制度の設定が想定より高く設定され、民間が動いているので根付くよう整備したい。
また、国の予算10億円を活用し、県内の余った土地でメガソーラー(大規模太陽光発電)のモデル事業を開始した。他のエネルギーは規模が小さいため事業化が難しいが、小水力発電、地熱バイナリなどは導入可能性を調査しているところ。規模の大きい風力と地熱を進めたいと考えている。風況の良い所で数万kwの発電ができるので、企業誘致のために風況データを県ホームページに公表し情報提供している。
○質問:「エネルギーの地産地消を考えた場合、『農家がバイオ発電に取り組む』など、開発主体は地元が担うのがカギと思う。外資ではなく地元がかかわる施策はどのようにしているのか?」
○回答:「地域主体でファンドをつくる、といったことを考えている。地域住民の意識向上が欠かせないので長野県の市民発電を取り入れるなど研究している」
【課題2】産業集積で雇用の創出
いわき沖で浮体式の風車を使用した洋上風力発電の実証実験を行うことになっている。3~4基の風車で100万kwの出力を見込んでおり、原発1基分に相当する。
再生エネルギーは施設をつくっても雇用に結びつきにくい傾向があり、洋上風力発電などの大規模な施設を導入すれば、部品などが必要になるため、いわき市に工場などの産業集積が見込め雇用創出も期待でき、さらに県内に研究拠点ができれば産業集積にも寄与する。
4)県議団との懇談
県庁の説明に続いて、日本共産党県議団の宮本しづえ県議と熊谷智事務局次長と懇談を行いました。
【市内の線量と除染の現状】
福島市の線量は1μsv程度だが、学校は優先して除染を行い0.3μ程に低減、宮本議員の自宅のある渡利地区は年間1.8msv程度の線量。
県内60万戸(福島市で11万戸)の除染が必要だが、やっと900戸が始まったところ。問題は側溝などの土砂がたまる所で、線量が10~30μ程度になるが、仮置き場が決まらないために手が付けられていない。政府が最終処分に至る全面的な方針を示さないために、中間貯蔵施設が決まらず仮置き場もなかなか決まらない。雨どいの下や側溝の線量が高くなっており、旧市街の下水汚泥(合流式)は最高40万ベクレルになっている。
党と後援会が独自に放射線測定を行っていることも紹介されました。
【福島で、子どもと暮らす親としての思い】
懇談のなかで、熊谷智事務局次長は次のように述べました。
いま1歳半になる子どもは、この1年外遊びをしていないし、これからも「外遊び」の楽しさを、外の芝生で横になる楽しさを知らないまま育つことになるかもしれない。子どもの成長にどんな影響があるか心配だ。
当初、自分も家族と避難するかどうか悩んだが、自分は避難している人たちを救援すべきだ、と決意した。また、福島で被ばくするリスクよりも自分が妻子と別々に暮らすことのストレスや子どもの成長への影響の方が大きいのでは、と家族と話しあって福島に残って生活している。福島に残っている家族はみなそのような葛藤をしている。
自主避難することも選択肢だし、とどまることも選択肢だが、どちらを県民が選んだとしても同じ支援をできるようにするのが福島県の役割だ。ただし国がやらないととてもできない。
*熊谷さんの被災当時からの思いについては、熊谷さんが執筆された『月刊保団連』3月号「福島で、子どもと暮らす 一人の親として医師に望むこと」をご参照ください
【医療・保育-全ての県民を支援する立場に転換を】
党福島県議団は避難者の多い山形・新潟の視察で医療機関を訪問した。福島のどの自治体から避難しているかによって並ぶ列が違っていた。避難指示地域の住民は無料だが、自主避難者はそうではない、という違いがあり、同じ被災者でも受けられる医療の内容が違ってしまっている。同じ被災者・県民の医療に差がないようにすることが課題だ。
保育も同様で、「域外保育」を認めている市町村も、そうでない自治体もある。保育を受けられない自主避難者は、住民票を避難先に移す方も多い。しかしそうするとせっかく実現された「18歳未満の医療費無料化」が、適用されなくなる。
この「18歳未満医療費無料」も県は「子育て支援であり、被災者支援ではない」と言う。福島県に帰ってきて子育てをするなら支援する、県外に避難している人は支援しない、という立場だ。そうではなく、全ての福島で被災した住民を支援する立場に転換しなければならない。
県は、「当時どこで何をしていたのか」被ばく量調査アンケートをしているが、22%しか答えられていない。外部被ばく量を測定して返すもので提出した人にだけ「健康ファイル」を配る。だが、PTSDなど被災時の辛い気持ちを思い出したくない住民もいる。こうした分断はすべきではない。
*参考*「すべての県民に支援を」の立場での共産党福島県議団の論戦
(下の画像をクリックすると日本共産党福島県議団のサイトに移動します)