全国初の常設型住民投票条例(愛知県高浜市)を視察
全国初の常設型住民投票条例(愛知県高浜市)を視察
2008,05,19, Monday
日本共産党川崎市会議員団は4月15日、愛知県高浜市における全国初の常設型住民投票条例について視察を行ないました。前日の大阪府吹田市に続けておこなわれたものです。
川崎市で6月議会に常設型「住民投票条例案」が提案される前に、全国初の常設型「住民投票条例」を制定した愛知県高浜市の条例について、常設型とした背景、制定過程での市民参加と市民意見の反映、市議会での審議内容、条例の具体的内容(条例の目的と定義、住民投票の請求または発議、住民投票の形式、執行、投票資格者、投票期日、情報の提供、投票運動等)の特徴と論点、制定過程での教訓・問題点を学ぶために視察・調査を行なったものです。
市古映美、石田和子、石川建二、斉藤隆司、井口真美、勝又光江、大庭裕子の議員7人と、政務調査員2名が参加しました。
三州瓦が地場産業の穏やかで小さなまちで
高浜市は愛知県の中央南部三河平野の南西部に位置し、延べ16,200世帯、人口約44,000人で、南北5.5km、東西4.2kmで、車なら15分程度で市内を通過できるほどの小さいまち。地場産業は三州瓦で、その70%近いシェアを誇る、町中のあちこちに瓦工場の煙突が立っている静かなまちである。ここ数年、三州瓦工場が減りつづけ、市としても三州瓦のPRに懸命に取り組んでいる。
白い三州瓦が庁舎を飾る高浜市役所を訪ね、市議会の委員会室で、行政担当者からレクチャーを受けた。市議会議長から丁重な挨拶をいただき、文書管理グループリーダー、住民投票条例の作成に関わった現財務経理グループリーダーが対応してくださり、初めに内田氏から条例制定の経過と意義について説明された。
川崎市素案とまったく違う~市長の恣意的な判断が入る余地がない規定
同市は、常設型の「住民投票条例」を平成13年4月から施行。当時「常設型、議会の議決なしで投票を実施できる全国初の条例」と多数報道され、注目を集めた。
市政運営上の重要事項について、有権者の3分の1以上の発案、市議会の議決または、市長の発議があれば、住民投票を実施することとされ、除外事項に該当する場合を除いて、住民投票の実施を市長に義務付けており、実施するかどうかについて、恣意的な判断が入り込む余地のないよう規定していることも注目される点である。
市民参加のまちづくりを進めるなかで条例制定の機運が高まる
高浜市は、特色のある福祉のまちづくりに取り組んでいる。介護保険の審議会に公募市民が入り、地域福祉計画の策定では「100人委員会」が中心となり、延べ147人が地域福祉を考えて作り上げたなど、市民の行政への参加がいろんな形で試みられていることが背景にあると話された。神戸空港の建設計画に対し、市民が30万以上の有権者の署名を集めて住民投票の実施を請求したが、市長と議会がこの請求に反対する結果を出したことが、きっかけになったとも語られた。
条例案が提案された平成12年12月議会では、条例制定の背景、議会との関係、発議の要件、結果の尊重義務など条例案全般にわたる質疑がなされ、全会一致で可決された。その後、同条例は平成14年6月に全部改定された。
「住民発議が有権者の3分の1以上の署名」は地理的条件から
常設型として住民投票条例を提案した理由は、「その都度、条例を上程しなくてもよい、スピーディーに対応できる、市民参加と市民意見の反映ができ、市民と行政の協働のまちづくりをすすめるため」と話された。条例は、投票権を18歳に引き下げ、永住外国人も投票できるようにしたが、まちづくりに参画してもらうのは当然で、若者世代にもまちづくりに加わってもらうべきという考えから、そうしたとのことである。
住民投票の請求には有権者の3分の1以上の署名が必要であり、この点は川崎市の10分の1より厳しいという点について、担当者は、「高浜市は人口44,000人、面積13平方㎞のひし形の平坦な地形で、3分の1がクリアできる実現可能な線であろう、過去の実績をみても3分の1を集めることはそう大変ではない。当初は、3分の1はハードルが高いのではという意見があったが、本市の地理的な要件から考えた」と述べた。
また、そもそも論として、このまちでは住民投票が想定されるような具体的事案があるのか疑問だが、将来的には合併問題をめぐって起こりうるのではないか、と考えていると話された。
「住民の発議に対して議会が議論するのが、どうなのか疑問」
高浜市の条例は、市長や議会も発議できるようになっているが、川崎市のような、住民が発議した場合に市長がそれを重要事項かどうかをチェックし、有権者の10分の1の署名を集めても議会にかけて3分の2が反対だったら住民投票が実施されないという代物とは違う。
高浜市の担当者も、川崎市の条例素案をよく読みこんでいるようで、「住民の発議に対して、はたして議会で議論することが、住民投票として私個人の意見ですが、どうなのかな?という気がする」「高浜市でも、住民の署名が3分の1を達成したら実施すべきだと思う」と述べました。
「一番の問題は失権者だった」として、「例えば犯罪者も刑の執行が終われば住所地に戻るわけで、住民の一人としてまちづくりの課題について意見を聞くことは住民投票の目的からいっても必要であり、まちづくりに関しては排除の論理はとらず、個人の人格を尊重していくという考え方にもとづく」と話された。
市議団と高浜市理事者のやりとり―主な質問と回答
(質問)重要事項の判断は、誰がするのか?
(理事者回答)住民投票を執行するのは市長なので、個別の判断は市長になる。ケースバイケースということもあると思うが、何分まだ経験していないので、そのときにならないと分からない。しかし3分の1という高いハードルを設けているので、それなりの判断は行なわれるはず。
(質問)議会選挙等との同日投票について、川崎市は莫大な費用がかかるから一緒に行なうと言っているが、高浜市はなぜ同日投票を廃止したのか?
(回答)高浜市も同日に行なうことや、住民投票は別の場所で行なうことを考えていたが、投票場所が一箇所でいいのか、人員はどうするのかなどいろんな問題が出てきて、結果的に独自に行なうこととし、すべての選挙と同じ投票所で住民投票できるようにした。
(質問)投票率50%、得票過半数25%について厳しいのでは。
(回答)民主主義の考え方からいって、この率は必要と考えている。もちろん、投票率を上げることは市の責任でもあります。今までの投票率については、市議会選挙は62.8%、参院選は61.98%だった。選管として投票率を上げるのが市の責任になると思う。
(質問)広報の仕方は?
(回答)行政としては中立的な立場で、公表・情報提供していく。賛成・反対という中身の公表はできないが、データ的なものは出さざるをえない。
(質問)どのような経過で策定されたのか、市民への周知はどのようにされたのか?
(回答)住民参加といいながらこの条例についてはパブリックコメントも行わず、トップダウンで提案されたもの。何も問題がなかったときにつくっておいたことで、何かあったときに役立つと考えた。今まで使ったことはないが、問題が起きてからつくるより、セーフティーネットの部分でつくって良かったと思う。