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「児童虐待防止のため緊急の体制整備を」―第3回川崎市議会定例会での議員提出議案第1号(川崎市子どもを虐待から守る条例案)に対する討論

9月市議会の最終盤の9月27日、自民・公明・民主・みんなの党―4党が「児童虐待防止」条例骨子案を突如提案。行政の役割は二の次にして「通告の義務を自覚し、怠ってはならない」などと市民にだけ重い責務を課そうとする内容にもかかわらず、市民の意見をまったく聞かずに作成・提案されました。
子どもを虐待から守るには、児童相談所の職員体制の抜本的拡充など環境整備こそ求められます。委員会審議で日本共産党は、実効性のある条例をつくるなら、市民や関係者、多くの専門家、なによりも子どもの意見をきちんと聞いて、広範な市民討議で練りあげるべきと主張しましたが、提案者は「何が市民の利益になるかを決めるのは議員」「市民から負託された議員だから、市民の意見は聞かなくてもいい」(自民市議)と拒否しました。審議をつくす立場で共産党市議らが修正意見を述べていると、提案者が突然、条例骨子案の取り下げを表明して審議打ち切りが強行されました。

そして最終日の10月3日、本会議に4党の議員共同で条例案が提出されました。4党を代表して浅野市議(自民)が行った「川崎市子どもを虐待から守る条例案」の提案説明に対して、日本共産党のちくま幸一市議団長は質疑を行い、続いて反対討論を行いました。

討論の内容をご紹介します。

川崎市子どもを虐待から守る条例の制定についての反対討論

DSC079282012年10月3日 日本共産党 竹間幸一

私は、日本共産党を代表して、ただいま提案されました、議員提出議案第1号「川崎市子どもを虐待から守る条例の制定」について反対討論をおこないます。

議会のルールをふみにじる市民委員会での審議

まず、条例案が4党の共同で提出されるに至るまでの市民委員会審議についてです。

市民委員会に発議された「川崎市子どもを虐待から守る条例骨子案」の審議は27日に骨子案が示され、28日に再開しました。この審議を巡るなかでは、27日の委員会で決まった結論と異なる運営内容を28日に持ち出すことによって中断、再開が夕方17時過ぎになりました。また、10月1日は、すでに時刻午後10時を過ぎるまで議論を積み重ねてきました。ところが、検討課題をまとめるといって休憩をとったにもかかわらず、休憩後は、その検討課題が示されるのではなく、すでにプロジェクトチームでまとめたものが骨子案の中に盛り込まれたものが提出され、さらに資料として条例案を提出してもよいかとの提案がだされる、またその時点では委員会のなかで資料請求した資料も提出されていないものもありました。これは休憩前委員長がまとめた発言とまったく違ったものでした。

そこを追及されると、不意打ちをかけるように休憩が要求され、休憩後の夜12時近くになって、何の理由も示されず、骨子案を取り下げると発言されました。骨子案の審議はまだ途中で、審議を続ければ全会一致になる可能性もあったにもかかわらず、功を焦り、突然このようなやり方をとるというのは、まったく理解できないものです。ましてや子どもを虐待から守る条例の骨子案だからこそ、ていねいな審議、開かれた審議こそ必要でした。

このように、開かれた議会を目指して検討がすすめられているなか、委員会で決まった結論と異なるルールを繰り返し押しつけてくる、最後は一方的に審議を打ち切るなど、議会のルールを踏みにじるようなやり方を4党が取ったことは、議会人として恥ずかしいことであり、市民の信頼を裏切るものであります。

なぜ市民の意見を聞かなかったのか

次に、条例の制定に際し、市民の意見を条例に反映させる、意見を聴取する市民説明会をなぜ開催しなかったのか、ということについてです。

このことについて、自分たちはたくさんの虐待の事例を聞いてきた、相談にもたくさんのってきた、それらのことを盛り込んで骨子案をつくった、また、日頃から市民の声は聴いているので市民意見は十分反映された、さらに選挙で選ばれたのだから、そこですでに市民からの信託を受けている、だからあえて、骨子案で市民意見を聞く必要はない、これがプロジェクトチームの見解でした。そのことは、骨子案の段階で市民の意見を聴く必要がないという理由にはなりません。問題の本質が違います。

条例骨子案では、「児童虐待の防止等に関する法律」では、「親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監督するもの」とした虐待の定義を、「当該保護者が交際している者およびその他の同居人以外の者」にまで拡大したこと、義務規定を課した「市民の責務」、「情報の共有」「通告に係る対応」「転出する場合の措置」にいわゆる「おそれ」という文言をいれるなど、人権侵害も危惧されることも含めて市民への影響、市民の責任は多大なものが含まれています。

骨子案ができた段階で市民の声、意見を聴取する市民説明会をもつことは議会人として条例案を提案する場合でも当然のことです。

条例が成立したら市民への周知徹底のため、周知期間を一定とる、「必要なときはその結果に基づいて必要な見直しを行うものとする」としていますが、これとて、事前の市民説明会をしなくてよい、理由にはなりません。

ことは、子どもを虐待から守るという趣旨の条例の提案です。虐待の事実が深刻であればあるほど条例制定の過程においての議論こそ、虐待をなくすたしかな道につながるのではないでしょうか。

ましてや選挙で市民から選ばれたのだから、市民の利益になるのだからいいではないか、このような発言もありました。市民の利益になるかどうか、は市民が判断することです。このような発言はまさに市民をないがしろにするおごりの姿勢そのものであることを指摘しておきます。

第1章 総則―「児童の健やかな成長発達」こそ中心に

第1章 総則についてです。

児童虐待は児童の人権を著しく侵害し、子どもの心身の成長発達に著しく深刻な被害をもたらすもので決して許されるものではありません。我が党は、「児童虐待防止等に関する法律」及び「川崎市子どもの権利条例」の掲げる施策を真に徹底、増進するなかで、子どもを虐待から守り虐待をなくす取り組みがすすむと考えています。

条例案の「目的」は、「子どもの安全とすこやかな成長が守られる社会の形成に寄与すること」としています。児童虐待防止等に関する法律の目的は、児童虐待は著しい人権侵害と明記し、「児童虐待の防止等に関する施策を促進し、児童の権利利益の擁護に資すること」としています。三重県も堺市も「こどもの心身の健全な発達に寄与すること」「子どもの安全と健やかな成長及び発達に寄与すること」と子どもの健やかに育つ発達保障を掲げています。条例の目的は、社会の形成にあるのでなく、法律の定める「児童の権利利益に資すること」、あるいは法の趣旨としている児童の健やかな成長発達に資するとすべきです。

対象者が限りなく広がるおそれのある「虐待の定義」

次に「虐待の定義」ですが、法では親権、監護権者、及び同居人によると定義されています。法の定義を超え、「保護者が交際している者」「その他の同居人以外の者」と拡大していますが、これでは、対象者が限りなく広がる恐れがあります。これらは刑法の暴行罪、傷害罪で十分対応できるはずです。

「基本理念」で「何人も虐待を見逃さないように努めるとともに、虐待のないまちづくりを推進し、子どもの安全と健やかな成長が守られる社会形成に努めなければならない」としていますが、虐待のないまちづくりというのが抽象的です。

「市の責務」―具体的な対策こそ急ぐべき

「市の責務」についてです。

法律は国と地方公共団体に対し、児童虐待の予防及び早期発見、迅速かつ適切な保護、自立の支援、児童虐待を行った保護者に対する親子の再統合の促進への配慮・・・を行うため、環境省庁相互間その他関係機関及び民間団体の間の連携の強化、民間団体の支援、・・・その他児童虐待の防止等のために、必要な体制の整備に努めなければならない」と各段階において、地方自治体に責務を課しています。

2011年4月の虐待による死亡事例に対する児童福祉審議会の検証報告書を読むと、経過のなかで、乳児院から家庭に返す決定とその後の支援のあり方に大きな問題があると言わざるを得ません。この報告書には問題点と課題、改善のための貴重な提言が提起されています。「児童相談所には強制的な介入から被虐胎児のケアや家族再統合に至る援助、区役所への後方支援まで多種多様かつ高度な専門性を要する業務が集中して求められている。本市では地区担当が継続相談のケースワークに並行して新規ケースの初期対応や緊急対応、さらには重篤ケースの家族再統合までにない、対応件数も増加している。初期対応、緊急対応、家族再統合、司法的対応など高い専門性を要する分野については専任で実施できる人員配置、体制整備が必要である」としています。骨子案では、努力規定になっていましたが、義務規定にすべきと主張した結果、第4条の4は、「努めなければならない」が盛り込まれました。現在の3児童相談所における地区担当の一人当たりの平均持ちケースは82件です。専任で実施できる人員配置、体制整備が必要であるというくり返しの提言をしっかりうけとめ、法律のように、各団体において具体的な対策をとることこそ、急ぐべきです。

第6条 保護者の責務―しつけと称した虐待の正当化を許さない規定を

第1章第5条 市民の責務についてです。

市民に対し子どもを虐待から守るために「虐待のないまちづくりを推進するための市の施策および関係機関等の取り組みに積極的に協力するよう努めなければならない」と義務を押し付けています。法の規定を超えて市民に対して「努めなければならない」という義務付けはやめるべきです。

第6条 保護者の責務についてです

「子どものしつけに際して人権に配慮し」とありますが、法は非常に慎重な規定になっています(第14号2項)。子どもは人権の主体であり単純に配慮の対象ではありません。「しつけ」と称して虐待を正当化することを許さないことが法律制定の理由になったことを考えれば、子どものしつけと虐待防止をリンクすべきではありません。「子どものしつけに際して」は削除すべきです。

第7条 関係機関等の責務についてです。

骨子案は、市の施策に対して関係機関等に協力を求めるだけで、しかも義務規定となっています。市が協力をしていく内容になっていません。また、弁護士なども含めた関係者が職員に「研修」を受けさせる義務を負わせ「自らの資質の向上に努めなければならない」と自助努力を義務化させています。この規定は法に反しているのではないでしょうか。

第2章 区役所の機能強化について

第2章 区役所の機能強化についてです。

児童相談所とともに、区役所の体制整備については先の提言で、「母子保健業務を始め、多くの業務を担っている保健福祉センターにおける虐待対応、虐待予防を可能にする組織体制整備が急務である。保健福祉センター内で情報共有会議、方針決定する会議等の位置づけを明確にし、組織決定に基づく対応を徹底することが求められる。原則複数人対応とすべきであり、それを可能にする人員配置も検討すべき」としています。

第8条では、我が党の委員会での指摘をうけて責務規定が盛り込まれましたが、具体的な対策を急ぐことが、虐待を予防し、虐待から子どもを守ることになると考えます。

第9条 情報の共有―市民の人権侵害の可能性のある「虐待が行われるおそれ」の規定は撤回を

第9条 情報の共有についてです。

「市は、虐待の防止等のため、虐待が行われた、又は行われるおそれがある場合はその旨の情報を区役所及び児童相談所において適切に共有し、それぞれが管理する情報に差異が生じないよう必要な措置を講ずるとともに、区役所における当該情報の共有の徹底を図るものとする」としています。「虐待が行われるおそれ」がある旨の情報という、きわめて抽象的な概念になっていることは問題です。第20条転出する場合の措置についても、「虐待を受けるおそれのある子ども及びその保護者」の情報を転出先に伝達するとあります。

プライバシー権など市民の人権を侵害する可能性があることから、法規範は規定内容が明確でなければならないとされています(「明確性の原則」)。したがって、規定内容が漠然としていれば、それだけで無効とされているわけです(「漠然性ゆえに無効の法理」)。児童虐待防止法が、虐待が現に「行われている」おそれと、限定的にしているのは、まさにこうした調和を考慮した規定されているものです。

ところが、条例案では、虐待が「行われるおそれ」と広げてしまっています。「行われるおそれ」とは一体どんな場合が該当するか、まったく不明確であることに加え、誰がそのおそれを判断するのかも明確でなく、これでは、たとえば、大きい声でわが子を注意したときのような場合のみならず、行政が、恣意的な解釈で市民の情報を集めることが可能なものとなってしまいます。そのうえ、自分の知らないところで、虐待をするおそれがあると判断され、自分の知らないうちに、その情報がどこまでも伝達されていくことになるわけです。

これでは、市民の人権侵害が起こる可能性が高いものであることから、問題のある規定だと指摘し、撤回することを求めたのに対し、提案者は受け付けない態度に終始しました。

第3章「未然防止」について

第3章「未然防止」についてです。

第10条は、「市は、虐待の未然防止に当たり、市民および子育て支援機関と連携し」「安心して子育てができる環境の整備」に「努めなければならない」としています。

骨子案では「努めるものとする」とされていたものが、わが党の主張で「努めなければならない」とされました。

また、「子育て支援機関等」に市の施策への協力を求めていますが、「子育て支援機関等」とは何を指すのか、対象が明確ではありません。「虐待防止法」では、協力を求める対象を「学校、児童福祉施設、病院その他児童の福祉に業務上関係のある団体及び学校の教職員、医師、保健師、弁護士その他の児童の福祉に職務上関係のある者」に対し「協力するよう努めなければならない」としており、その対象は明確です。協力を求める対象は、公的機関にある者やあるいは公共性が高く、児童虐待を発見しやすい立場にあるものにすべきです。仮に「子育て支援機関等」を広く解釈し、NPOなどを含めるとすれば、「子育てに関する支援のための市の施策」への協力は、市が協力を求めるのは必要としても、「子育て支援機関等」に市への協力を努力規定として定めることは、行き過ぎた規定と言わなければなりません。

第15条 「ためらわずに警察の援助を求めなければならない」―市民の内心に介入する内容は撤回を

第4章 第15条「通告に係る対応」についてです。

法律では「児童虐待を受けたと思われる児童を発見したものは、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない」とされています。ところが条例案では「市民及び関係機関等は、児童虐待の防止等に関する法律の定める通告の義務を有していることを自覚し、当該義務を怠らないようにしなければならない」としています。なぜ、市民にも二重に義務を要求するのか、重い負担をかけるのか理解に苦しむものです。骨子案の議論のとき、通告件数を増やすことがこの条例制定のひとつの意義という発言もありました。

いまの川崎の状況で通告が増えれば虐待にたいしていい効果を期待することができるのでしょうか。

ある川崎区の小学校の三年生は、銀行の現金引き出し機の影に隠れていて現金が引き出されると、すばやく出てきて現金をつかみとる。当然つかまって親に引き渡される、すると親はその子をぼこぼこに殴ったらしく、翌日学校にアザだらけで登校してきた、母親に知的障害があり、妊娠していることもあり、この子どもにはまったく関心を示さない、学校から児童相談所に通告、相談しても、人手が足らない、丁寧な相談にのってもらえない状況です。小学六年生の男の子、朝学校に登校してきたら酒臭い、父親が残した酒をみんな飲んでしまったといいます。二日酔いの状態で、彼のために学校は一部屋用意しなければなりませんでした。母親はこの息子を溺愛している、思い余って児童相談所に通告したが、このケースも一時預かりもいっぱいでできない、という状況で学校も困っているとのことです。もっと丁寧に子どもや親に向き合える児童相談所の職員がいれば、というのが現場の声です。

通告を増やしても、それを受ける体制がいますでに手一杯なのです。

この例をみただけでも、いま、深刻な事態におかれている子どもを救うためには何が必要なのか、私は現場をもっとしっかりみてほしい、と思います。

いま緊急性が求められているのは通告の強化ではない、具体的な体制の強化を一刻もはやくすすめないと、子どもたちの命もあぶないのです。

さらに、「子どもの安全を確認する場合」は、「法第10条第1項及び第2項の規定にしたがって、「ためらわずに警察の援助を求めなければならない」としています。法第10条第1項では、「援助を求めることができる」第2項では「求めなければならない」と分けて規定されています。ところが、条例案では、1項2項ともに求めなければならない、とされたうえ、法では「迅速かつ適切に」となっているところを、「ためらわずに」という内心の動きを表現するような情緒的・主観的な表現となっています。しかも、ためらったかどうかは、誰が判断するのかも不明確です。内心に介入するような規定内容は撤回すべきです。

最後に―待ったなしに必要なのは体制強化

以上討論してきたように、いま必要なのは、まったなしの具体的な体制強化です。一刻も猶予できない、この瞬間もこどもが虐待にあっている、はやく救いたい、命を救いたいそのことは共通の願いです、そのためには一刻も早く緊急に体制の強化を求める決議を議会としてあげることこそ必要ではないか、そして本当に子どもの権利条例、子どもオンブズパーソン、児童虐待の防止等に関する法律を十分活用するなかで、市民を交えて議論を重ね、全会一致で作り上げることで議論を続けるべきでした。

以上から、議員提出議案第1号川崎市子どもを虐待から守る条例の制定については反対であることを表明して、討論を終わります。


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