川崎市の公契約条例成立 賃金ルール確立への一歩
粘り強い運動と党市議団の論戦実る
市発注の事業を受注した企業に、労働者へ一定額以上の賃金を支払うよう求める、公契約条例(市契約条例の一部を改正する条例)が川崎市で制定されました。政令市では、全国で初めてです。労働者の願いが実現しました。
「一人親方」も対象
条例が「公契約」の対象にしているのは、(1)予定価格1000万円以上の業務委託契約のうち、清掃・警備・事務などの事業(2)予定価格6億円以上の工事請負契約―です。(1)に従事する労働者の賃金は「生活保護額」を、(2)の労働者については、「公共工事設計労務単価」を基準として、最低賃金を定めるとしています。
この中には、自らが労働力を提供する「一人親方」も含まれます。
事業者に、市の事業に携わる責任を自覚させ、労働者が生活できる賃金を確保させることで、「安値入札競争」などによる、労働環境悪化に歯止めをかけ、工事や業務の質を確保することが目的です。
関係する労働者は数万人にのぼると予想され、大きな効果が期待されます。
川崎市建設労働組合協議会の野口雅人事務局長は、「12年にわたって毎年、対市交渉で粘り強く要求してきた運動がついに実った」と感慨深げに語ります。
同協議会は、川崎建設労連、土建川崎市協議会、建設横浜川崎支部で構成しています。
建設協議会は1998年から毎年、市との交渉で公契約条例の制定を求めてきました。
しかし市は「条例が労働条件に介入することは、憲法に違反する可能性がある」などと主張し、足を踏み出そうとしませんでした。
それでも協議会は川崎労連と連絡会を立ち上げるなど、粘り強く運動を続け、2005年には「公契約条例の制定を求める請願」を市議会に提出。全会派が紹介議員となりました。
委員会では、日本共産党の市古てるみ市議が請願採択を求める論陣をはりましたが、他の会派が採択を拒んだため継続審議となり、事実上の不採択になりました。
視察や質問を重ね
党市議団は、公契約条例への発展をめざして「調達に関する基本方針」を定めた東京都国分寺市の川合洋行市議(当時)らを招きシンポジウムを開くなど、運動と共に学習を重ね、制定に力を尽くします。
建設業界の民主団体らが世論を広げたことに後押しされ、全国各地で公契約条例制定をめざす動きが進みます。川崎市での大きな変化のきっかけをつくったのは、09年9月、全国初となる千葉県野田市の公契約条例制定でした。
同市は、「本来は国が法整備を行うべきだ」と、全国市長会を通じて国へ法整備を求めてきましたが、国の対応はなく、先鞭(せんべん)をつける意味で条例を制定しました。
市議団は11月、野田市を視察。川崎市でも議論されてきた、地方自治、憲法、労働法、独禁法上の論点などについて説明を受け、12月の市議会定例会で市古市議が質問に立ちました。
市古市議は、野田市の制定に触れ、低入札価格がしわ寄せされ、低賃金に苦しむ下請け業者や労働者のために条例を制定するよう、強く求めました。これに対して阿部孝夫市長は、同市の条例を「一定の評価ができるもの」とし、「条例制定に向けて検討を進め」ると答弁。さらに今年3月にはちくま幸一党市議団長の代表質問に、「10年度中に提案する」と答え、条例案が具体化されてきました。
ちくま団長は、「一人親方」を対象労働者に含めるようにすること、最低賃金の決め方などについて労働組合など関係者との協議・懇談に応じることなどを要求。市が9月に募集したパブリックコメントには、市民から「よりよい条例にしてほしい」「適用範囲を広げてほしい」など、838件の意見が寄せられるなど、関心が高まりました。
条例案が出された12月議会の委員会では、共産党のかつまたみつえ、市古の両市議が、短期契約の下で働く労働者の雇用不安が課題となっている野田市の例を挙げ、「短期契約のものについては、雇用継続の努力義務を入れるべきだ」と改善点をただしました。
市は、「課題と認識している。関係局と協議していきたい」と述べています。
賃下げにブレーキ
建設協議会の野口事務局長は、「今後も、当たり前の賃金を当たり前に支払い、もらえる公益・労働・使用者の賃金ルールの確立を求めていく」と述べています。
ちくま団長は、「制定を契機に、労働者の際限ない賃下げにブレーキをかけたい」と期待を寄せています。